火閻魔人 〜 支配者の黄昏

火閻魔人 (ジェッツコミックス)

火閻魔人 (ジェッツコミックス)

支配者の黄昏 (ウィングス・コミックス)

支配者の黄昏 (ウィングス・コミックス)

ああ、どっちも画像がないのか…。orz

という訳でペタリ。

  • 火閻魔人 3話収録 鄯「爵位の魔王」鄱「座敷童子」鄴「座敷童子-緒」

「火種(たね)」を操る火閻魔人である『鬼退治屋』桃源津那美が活躍する「バイオレンスアクションホラー」。白泉社・月刊コミコミにて各作品を前後編で掲載。因みに「座敷童子-緒」は著者のデビュー作で、津那美は登場しない。
表紙折り返し部分の作者コメントによると「美形と妖魔と格闘技とゆー、まさにまんがならではの贅沢三昧」だそう。またかなり「夢枕獏」の影響が色濃く見られ、舞台が神奈川県小田原市であったり、絵柄が天野喜孝*1であったりする。時代的*2にキマイラシリーズやサイコダイバーシリーズが全盛期の頃なので無理からぬ話なのだが。作中の時代設定もキャラクターのファッションなどから同時期と推定される。


あらすじは以下の通り。

  • 爵位の魔王 神奈川県小田原市。相原悠美は追われていた。彼女を追う巨躯を持つその外国人の前に立ちはだかる、長身白髪の美貌の男・桃源津那美。悠美は吸血鬼「伯爵」の犠牲者で、男は伯爵の下僕・狼飢だった。悠美を助けるため、そして己の求める「答え」を得るために津那美は伯爵と対峙する事となる…。
  • 座敷童子柄波高校に現れた津那美。傍箕家を通して鬼退治の依頼を受けてのことだった。大沢校長から事の顛末を聞く津那美を、女子生徒が襲う。餓鬼人形に操られた彼女を見て、津那美は敵が誰かを知る。忌弥童子。過去に津那美が滅ぼした鬼だった。因縁の戦いが始まる…。
  • 座敷童子-緒『座敷童子』の前日譚(と思われる)。旧科学室から試験管を取ってくるように命じられた3人の学生が忌弥童子(?)と会う話。男子生徒は餓鬼に食われ、女子生徒は「ママ」として忌弥童子と暮らすことになる・・・。ただし『座敷童子』と設定の食い違う部分も散見されるため、あくまでもこれをベースにして『座敷童子』を執筆したと思われる。

登場人物は以下の通り。(名前の後の数字は登場作品)
§メインキャラクター

  • 桃源津那美(とうげんつなみ)鄯鄱 主人公。「火種」を操り人体発火現象を人為的に起こし、全てを焼き尽くす火閻魔人。アルビノで美麗な青年の外観を持つが、実は81歳。本人曰く「精神年齢は14歳から成長していないのでわがまま」との事。その頃に火閻魔人の能力に目覚め、体内中の色素全てが抜け落ちた。両親は「ただの人」だった。また、餓鬼(グール)の「ツナの変わり身」や忌弥童子の「源氏の正当な血統」などの台詞から、津那美の前世は『渡辺綱(わたなべのつな)*3』と思われる。黒いコートを着用し、髪は後ろで一つに束ねている。
  • 真言繰美(まことくるみ)鄯 桃源探偵事務所*4の受付兼秘書。津那美の実の娘?
  • 前田洸(まえだこう)鄯 月刊プロトコイルのルポライター。長身で筋骨隆々、格闘家のような体躯を持つ。実際荒事にも長け、高沢専務のボディーガードを瞬殺。狼飢とも死闘を繰り広げる。得意技はキャプチュード、ニールキック。
  • 傍箕綾之助(わきみあやのすけ鄯鄱 妖怪退治の元締的存在?但し鬼族退治に関しては津那美に一任している。津那美の美しさに心底惚れ込んでいる。また、政界にも多大な影響力を持つらしく、政治家の娘との政略結婚が後を絶たない。が、結婚相手は1週間も経たずに自殺してしまう。そんな姻戚関係でもこの国では大きな意味を持つらしい。
  • 明怜依(あれい)鄱 傍箕家に住む「傍箕の壺」の作者。「傍箕の壺」とは半径一理以内で滅びた鬼を永遠に封じる道具で、津那美が鬼退治をするようになってからは彼の威厳と伝説を守るために存在している。
  • 澁泉(じゅうせん)鄱 傍箕家に住む。忌弥童子に付けられた津那美の傷を塞ぐが、その時の台詞*5から見て人形師と思われる。

  
§サブキャラクター(犠牲者)

  • 相原悠美(あいはらゆみ)鄯 伯爵の犠牲者。伯爵の眷属となるも、津那美に全体細胞の0.05%(2兆5千3百万個)の呪われた不浄の細胞を焼き尽くされ助かる。
  • 相原正志(あいはらまさし)鄯 悠美の父で故人。フリーのルポライターで蝙巳製薬の取材をしていた。
  • 大沢(おおさわ)鄱 柄波高等学校(えなみこうとうがっこう)の校長。忌弥童子を封印する結界を張った僧侶の教えにより*6傍箕家に鬼退治を依頼する。予定調和の中に娘・和美が組み込まれたために苦悩する。だが、予定調和の輪を打ち破り、忌弥童子に刀で切りつけ津那美に攻撃のチャンスを与える。忌弥童子の吐く火球により死亡。
  • 大沢和美(おおさわかずみ)鄱 大沢校長の娘。培養体として忌弥童子の「子供」を身ごもる。
  • 松岡(まつおか)鄱 和美のクラスメート。予定調和を破り和美を守ろうとするが、業廉無に殺害される。
  • 真中(まなか)鄱 柄波高校前校長。娘から「生まれた」忌弥童子のために結界と生贄の準備をしていた。大沢校長に真実を伝えた後、餓鬼に食われて死亡。
  • 真中菊代(まなかきくよ)鄱 故人。21年前忌弥童子を孕む。
  • 長谷川(はせがわ)鄱 柄波高校教頭。予定調和の中に組み込まれ、餓鬼に食われてしまう。
  • 長谷川洋子(はせがわようこ)鄱 長谷川教頭の娘。最初に予定調和を脱却した人間だが、狂人*7として扱われ入院中。津那美たちが忌弥童子の居場所を知るきっかけとなる。


§敵キャラクター

  • 蝙巳稜貴(こうみりょうき)鄯 蝙巳製薬社長。その正体は吸血鬼『魔王ドラキュラ伯爵』。2020歳。
  • 狼飢(ろうが)鄯 伯爵の配下の「人狼ワーウルフ)」。かなりの巨躯の持ち主で、常に伯爵に付き従っている。洸との死闘の末敗北し、更に津那美の仕掛けた「火種」に触れてしまい炎上。*8
  • 座幻鬼(ざげんき)鄯 伯爵の配下(?)の鬼火を操る「鬼人(きじん)」。ただし、本人は「鬼人」と呼ばれる事を極端に忌み嫌う。普段は隠れているが、額に一本角がある。伯爵の持つ『魔王の覇権』を狙っている。
  • 高沢(たかざわ)鄯 蝙巳製薬専務。洸に伯爵の情報を漏らしたため、また座幻鬼を「鬼人」と呼び逆鱗に触れたために食われる。
  • 忌弥童子(いまわみどうじ)鄱鄴(?) 56年前に津那美に滅ぼされた鬼。黄泉の国で35年をかけ予定調和を張り巡らせて津那美を倒そうとするも、予定調和を打ち破るものの存在で津那美に敗北し「傍箕の壺」に封ぜられる。
  • 業廉無(ゴーレム)鄱 忌弥童子の「妖術 餓飢鬼」にて作られた餓鬼の集合体。巨大で筋肉質な外観をしているが、餓鬼の集合体ゆえ自分の意思で任意の餓鬼を自由に切り離すことが出来る。その特性ゆえ津那美の「火種」は内部伝達することを防ぎ一旦は優勢に立ったが、108個の「火種」による「桃源流火術 火炎包囲」により敗北する。

総じて未熟な部分が多々見られるが、若さゆえのエネルギーに満ち溢れた作品だとも言える。続編は構想されていたとは思われる*9が、掲載誌の廃刊などにより立ち消えとなってしまった。何だかんだ言って面白かったし、直接の続編を楽しみにしていたのだが非常に残念である。


  • 支配者の黄昏 表題作のみ

掲載誌を新書館・月刊ウイングスに移籍、時代設定を2019年、舞台を新宿に大きく変えて連載*10。初出90〜91年、初版91年12月。
時間的にかなり前作と隔たりがあるため、津那美以外に継続して登場する人物はいない。しかもその津那美ですら名を『紫擾津那美』と名乗っている。同作のOVA作品が東映Vアニメとしてリリースされている。


あらすじは以下の通り。
2019年2月、“日本一の犯罪都市”新宿で、一人の男が警官隊に射殺された。男は、人間のものとは異質な大きな牙をもい、ポケットには“人肉喰い”を誘発する薬があった。
一方、ひと月前突如“鬼”に変貌した蔵座英次は、多数の女性を殺害した末に、姿を消していた。英次の恋人橘静香は、私立探偵の紫擾津那美に捜索を依頼する。だが−。
奥瀬早紀、戦慄の近未来コミック!(単行本表紙折り返し部分より)


登場人物は以下の通り。

§メインキャラクター

  • 紫擾津那美(しじょうつなみ) 3年前突然新宿に現れ、1丁目にある廃墟で探偵業を始める。その当時、その一帯を支配していた楼梢会と衝突し、壊滅状態に追い込む。被害は雑居ビル43棟・車両62台が全焼、死傷者は一般人も含め3000人以上に及んだ。そのせいか、現在では街のチンピラですら「先生」と呼び恐れている。長身白髪は変わらないが、髪は束ねずそのままにしている。
  • レイコ 紫擾探偵事務所の受付兼秘書。
  • 澄枯(テンクー) 少年のような風貌の津那美の友人。津那美の依頼で「仕事」を手伝う。格闘技やヌンチャクに長けるが、その正体は人狼である。工藤との戦闘時にメタモルフォーゼし圧倒するが「5分足止めする」という目的が達せられたために止めを刺さずに撤収した。
  • 熊沢(くまざわ) 新宿警察署・警部。津那美に協力する代わりに、「鬼」の関る事件には逆に協力を依頼する。


§サブキャラクター(犠牲者)

  • 橘静香(たちばなしずか) 蔵座英次の元恋人で、彼の捜索を津那美に依頼する。鬼と化した英次に犯され、体中を牙や爪で引き裂かれたため、首から下はほとんど人工臓器に置き換わっている。
  • 蔵座英次(くらざえいじ) 鐘薪組とTAKAMIYA DRUG COMPANYによる「薬」のせいで「鬼」と化す。


§敵キャラクター

  • 晃龍(こうりゅう*11 「風使い」。かまいたちを応用した「風龍剣」を使う。
  • 茜龍(チェンロン) 晃龍の実妹。「風龍剣」の軌道を調節する「受け」を担当。
  • 工藤(くどう) 鐘薪興業(鐘薪組)専務。剣の達人で晃龍と切り結んだ後、手負いの状態で変身前の澄枯と互角以上に渡り合う。が、変身後の澄枯に倒される。澄枯曰く「津那美の他に、この街でオレに奥の手を出させるヤツがいるとは思わなかったぜ」との事。
  • 高宮?*12(たかみや?) TAKAMIYA DRUG COMPANYの社長。傍箕の分家の出と思われる。幼い頃に本家で「桃源」津那美に出会っている。外見は筋肉少女帯時代の大槻ケンヂに酷似している。
  • 茨木童子(いばらぎどうじ) 25年前、大江山山中で津那美が取り逃がした女性型の「鬼」。TAKAMIYA DRUG COMPANY本社ビル最上階に拉致されている。津那美が人間の天敵になると言い放ち、焼かれる。

 

4年の歳月を経たためか、現在とほぼ変わりない絵柄に大きく変わっている。内容は前作と比べよりダークな色合いを濃くしており、ハードな展開が魅力的である。鬼以外の人間も手にかける津那美の姿に衝撃を受けつつも、この数十年の間に何が起きたのか想像を巡らすのも楽しいかもしれない。
ついでにOVA版にも言及すると…澄枯がマッチョな大男になってるのが解せん。(苦笑)原作の設定で山口勝平声だと最高に良かったと思うのだが。*13

*1:言わずと知れたキマイラシリーズの表紙&挿絵担当。サイコダイバーシリーズも挿絵は描いてたっけ?

*2:初出86〜87年 初版87年11月

*3:渡辺綱 - Wikipedia

*4:作中そういう表記はないが便宜上そう呼称する。

*5:「表皮は人も人形も同じだが、中身はゼンマイを入れる訳にもゆくまい」

*6:5年に1度3名の男子と1名の女子を生贄として結果以内に入らせること。それ以外は干渉せず、もし何かが起こった時には速やかに傍箕家に連絡する事。

*7:予定調和において支配された世界で予定調和を脱却した者は(中略)本来人としてかくあるべき行動を取った者は、相対的に見た場合狂人として扱われる

*8:死亡したかどうかの描写はない。

*9:実際に単行本のあとがきで次回作は洸の成長話と書いている

*10:単行本化の際に加筆修正あり。

*11:本文表記まま。中国読みは不明。

*12:名前で呼ばれるシーンが無いので社名より類推。

*13:因みにOVA版の声は石丸博也